クオリカ導入事例

三次元湯流れ凝固解析システム
JSCAST

背景

鋳造型の内製化に際して
解析ソフト導入を検討

評価ポイント

タイでしっかりとした
サポートが受けられること

効果

不良の予測に成功、
改善の試みも積極的に

背景

独自の技術蓄積を目指しタイで型の内製化に挑戦
より効率的な鋳造型製作に向け解析ソフトを検討

バンコク中心部から車で東へ1時間ほど。サムットプラカーン県バンプリーに日本の大手バルブメーカー、株式会社キッツ(本社:千葉県千葉市、東証一部上場)のタイ生産拠点であるKITZ (Thailand) Ltd.があります。日本やアジア、アメリカなど世界各国向けに月約100万個の青銅製、黄銅製の各種バルブを鋳物から一貫生産。キッツグループにおける同製品の生産拠点として、重要な役割を担っています。

1988年に稼働を開始した同社に技術部が設立されたのが2017年のこと。それまでは量産工場として、決められた製品を高品質かつ効率良く生産することを追求してきました。しかし、シェアをより一層拡大するためには、現地のニーズに柔軟に応えた製品開発が求められます。そのために、タイで技術部を立ち上げて本格的に技術の蓄積を図ろうと考えたのです。中心的な役割を担ったのが、2014年から技術担当として初めてタイに赴任した堀田昇勇ダイレクターでした。

立ち上げに伴って、これまで外注していた型の内製化に挑戦しました。型は、バルブ製造にとって重要な要素であり様々なノウハウが詰まっているので、型を社内で製作できれば数カ月を要することもあった納期が大幅に短縮でき、細かな仕様変更にも対応しやすくなります。ただ、型製作のノウハウはタイにはまったくありませんでした。はじめは見よう見まねで工作機械やツールを揃え、試行錯誤しながら少しずつ品質を向上させていきました。まず金型の製作が軌道に乗ると、今度は鋳造に使う砂型の製造に挑みました。同時に、鋳造湯の流れや凝固プロセスを解析するソフトを導入して、さらなる技術確立を図ろうと考えました。

選定

運用はタイ人スタッフ、タイ語のサポートが必要不可欠
クオリカ現地拠点の存在も導入の決め手に

解析ソフトの導入にあたっては、実際に運用するタイ人がいかに使いこなせるか、ということが念頭に置かれました。将来的に、タイ人が主導権を持って技術開発を進めてほしいとの願いからです。

タイ人のスタッフがいくつかの解析ソフトをピックアップし、ソフト会社の社員に工場へ説明にも来てもらいました。しかし、セールススタッフこそタイにいるものの、細かな技術的なサポートとなると、タイ人ではない外国人スタッフの英語による対応となるなど難点がありました。鋳造などの専門的なやり取りとなると、タイ人スタッフにとって理解しやすいタイ語でのサポートが望まれます。「自分たちは素人だと自覚していましたので、どうしてもタイ語でサポートを受ける必要がありました」(堀田氏)。

そんな中、堀田氏が日本の工場に意見を聞くと、折よくクオリカの3次元湯流れ凝固システムJSCASTの導入が検討されていました。クオリカはバンコクに拠点を置いており、日本人も常駐しています。早速、堀田氏自らコンタクトを取りました。そして、JSCASTの機能性もさることながら、タイで日本語でもタイ語でもサポートがしっかりと受けられる安心感が導入の決め手となりました。そして2019年5月、プロジェクトがスタートしました。

日本語も巧みなクオリカのスタッフ

効果

シミュレーションにより不良の予測が可能に
製造現場から改善のアイデアが出るように

JSCASTでの解析を担当しているのは、若手タイ人スタッフのOrnut Yodmanee氏。大学で金属工学を学んでたことで、白羽の矢が立ちました。3次元のCADで図面を起こして、材料の金属や鋳造型の材質など諸条件を設定し、解析を試みます。時には実際に不良が起こった鋳造型を用いて、シミュレーションの結果と照らし合わせながら、なぜ不良が発生したのか原因を究明していきます。

JSCASTは、従来は目で見ることができなかった鋳造型内部の湯流れ、凝固の形態を可視化することができます。職人の長年の経験や勘による修正に頼っていた鋳造型の不具合に、科学的な観点からアプローチできるようになりました。堀田氏らも、これまでにJSCASTによるシミュレーションで数々の不具合の予測に成功しました。さらに事前にシミュレーションができることから、試作失敗時の損失を恐れずに製造現場から改善のアイデアが積極的に出てくるようになりました。歩留まり向上のため鋳造型の面数増加にも取り組んでおり、面数が増えた際の湯流れ凝固の検証や、湯道の形状変更、鋳造型の微調整などにもJSCASTを活用しています。

Ornut氏は「こんなソフトがあるとは知らなかったので、新しい体験をさせてもらっています。最初は難しかったけれど、少しずつ慣れて、上手く使えるようになってきました」と話します。技術的なサポートはクオリカのタイ人スタッフが対応。彼女は日本語が堪能なため、日本から来た鋳造に詳しいクオリカの社員に話を聞くなどして学んでいきました。堀田氏も「私を介さずにタイ人同士で技術的な話ができるので、本当に助かっています」と話します。また、JSCASTは3次元のCADデータ独自のインターフェイスで取込むことにより、短時間で簡単に解析モデルを作成できるのも特長です。「分かりやすくて使いやすい。機能性も十分です」(堀田氏)。

独自の技術確立目指す技術部のメンバー
(中央は堀田氏)

今後の展開

タイの成型をすべてシミュレーション
導入検討中の日本工場へノウハウ逆輸入も

今は主に現状使われている鋳造型の不良低減にJSCASTを利用しています。タイではバルブに使われるゴム部品やアルミダイカストの成型も行われていますので、将来的にはタイで手掛ける成型を技術部ですべてシミュレーションして、不良の検証などに活用していく構想もあります。さらにタイでJSCASTの運用が順調に進めば、同じく導入を検討している日本の工場に、タイで培ったノウハウを移転して運用することもできます。日本側も、タイでさらに実績が出るのを心待ちにしています。

キッツでは2019年に発表した第4期中期経営計画の中で、2030年に向けてバルブ事業で「Global Strong No.2」(世界での売上高ランキング2位)を目標としています。そして、日本及び3極(欧州、米州、アセアン)2拠点(中国、インド)を世界市場の重点エリアと位置付け、それぞれの市場環境に応じて事業を展開。2018年にはベトナムに現地法人、インドネシアに駐在員事務所を設立するなど強化を図り、東南アジアでトップシェアを目指しています。

堀田氏は「いずれはタイの人たちが中心となって工場を支えていってほしい」と語るなど将来に期待しています。技術部のタイ人スタッフが中心となって設計した製品がシェア拡大に貢献する日も、きっとそう遠くはありません。

(肩書などは掲載日時点)

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